この真綿ふとんは、贅沢ですよ。
養蚕家・菅野さんは教えてくれた。

(まゆ)にも、品質がある。通常、形のよい繭が絹糸の原料となり、
それ以外の繭が真綿ふとんに使われる。輸送でつぶれたり、汚れたりしたものだ。
「だけど、東京西川の真綿ふとんは違う」と、菅野さんは言った。
「絹糸に使用する“正繭”だけを贅沢に使うんです」。
1枚の真綿ふとんに使う繭は、約3,000個。素材選びから、より良い眠りは始まっている。

技と経験で、(まゆ)を煮る。
真綿ふとん職人・関根さんは優しく笑った。

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厳選した繭を、さらに入念に選びぬく。そして、“煮繭(にまゆ)”という工程へ。
蒸気で沸かした湯で約2時間、繭を煮る。不純物を取り除き、繭本来の白さを引き出すためだ。
関根さんは言う。「季節によって、繭の厚さは違います。
技と経験。その両方で煮加減を調節するんです」。
さらに、脱水、すすぎを丁寧に行う。繭は、人に磨かれ、真綿になる。

(まゆ)を、優しく延ばす。
延ばしの匠・佐藤さんの手は美しい。

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たらいに張ったぬるま湯。その中で、佐藤さんの手が魔法を使う。
繭を素早く延ばして袋状へ。5枚重ねて“袋真綿(ふくろまわた)”に仕上げる。
「力を入れると延びんから、優しく優しく延ばすんよ」。
1日200枚。50年以上、その日々は変わらない。
シルクの美肌成分が、お湯に溶けているからだろう。
匠の手は、小さな美しい手をしていた。

シルクが重なり、心地よさになる。
関根さん夫婦の息はぴったりだ。

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真綿はいよいよ、ふとんの姿へ。“手挽き(てびき)”という工程だ。
関根さん夫婦が息を合わせながら、真綿を一枚一枚、薄く伸ばしていく。
優しく丁寧に均一に。縦と横に重ねていく。
真綿のズレを防ぎ、耐久性を高めるためだ。
1kgの真綿ふとんで約650回の手挽き。作れるのは、1日2枚だけ。
いくつものシルクが重なり、心地よさになる。

シルクは、縫製の腕を試すんです。
縫製担当・関戸さんは言った。

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手挽きされた真綿を、シルクの側生地(がわきじ)に入れていく。
なめらかなシルクは、縫製の腕が試される。任されているのは、この道30年のベテラン・関戸さん。
「シルクだから、とっても滑りやすいんです。ゆっくり丁寧に縫いあげるのがコツですね」。
最後に検品を行い、東京西川の真綿ふとんは完成する。
その一枚は、季節を選ばない。湿気を素早く吸い、爽やかさを保つ。
高温多湿のこの国で、長く愛される眠りがある。